金魚の手紙  2007





「焼きバナナをたべよう、」
友だちは清潔にみがかれた(彼女が自分でみがいた)台所に立って、くろい美しいフライパンをとりだし
ぶどうの種のオイルをひいて、そこにバナナの輪切りにしたのを慎重に並べていきました
「こないだ夫が本をみて作ってくれて、それがカリッとしてとてもおいしかったから」

真剣に火加減を調節しながら
彼女は彼女の夫が最近つくったそのお菓子がどんなにおいしかったか、と
(そのお菓子は外側がカリッとしているのに中はトロッとして甘く温かいものなのだそうです)
彼女の夫がどんなにバナナがすきか、ということをのんびり話してくれました
(彼女の夫はバナナというくだものを愛するあまり、お菓子にしたバナナをたいらげたあとで
さらにもう1本の生のバナナもむいてたべ、「やっぱり生のバナナもおいしいね」と言ったそうです)

わたしは可笑しがる彼女の隣からその美しいフライパンを神妙な顔をしてのぞきこみました
それはいまはバナナがのせられているけれど
じっさいとても美しいフライパンで、彼女とその伴侶とのきれいな日常が宿っている道具なのでした


ところで並べられたバナナはオイルの熱で最初からたえまなく小さい音を立ててはいたのですが
みているうちにだんだんだんだん端から黄色く透きとおったようになり、
ついにはどうみても全体的に全般的にトロッとやわらかそうになってきました
(そのやわらかそうな部分は加熱とともに目にみえてじわじわと増えていったのです)

友だちはそんなバナナの変化をじいっと眺めていたけれど、待っても待ってもそれらが一向に
彼女が頭のなかにおもいえがいているカリッと愛あるおいしいバナナのようになっていかないので
少しかんしゃくを起こしてとうとうそれらをざあっと皿に盛りました

テーブルについてからも、なぜ思ったとおりにならないのか、お前らは、というネンのこもった目を
彼女は皿の上のバナナどもになおもじいいっと注いでいましたが
それからおもむろににおいをくんくん嗅いで、上からシナモンをがりがり削ってかけてくれ、
「このシナモンの香りだけはいいとおもうの」と、申し訳なさそうにわたしに言いました

しばらく前からわたしは内心
彼女の夫がこしらえたというものはようするにキャラメリゼではないのか知らんとおもっていましたが
もうそのことを口にするにもまったくもって遅かったので、とにもかくにも神妙な顔をして
いつもはよい大人らしく冷静な友だちが
うっかりこぼすみたいにみせてくれた可愛らしい彼女の生活のはじっこをじいっとじいっとだいじにみて

そのあと一緒に甘くて温かくていい香りのするバナナをたべました。



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